2019年4月より建設キャリアアップシステムの本格運用が開始されています。
徐々に登録者数も増加している一方で、このシステム自体を知らないという方も多く十分に周知がなされていない現状もあります。
今後、建設業を営んでいる皆様にとって、少なからず影響を与えることになると思われる「建設キャリアアップシステム」について解説いたします。
これまでの経緯
現在(2019年11月時点)の建設業へ就労状況は、60歳以上の技能者が全体の約25%を占めているのに対し、後継者として将来を担っていく30歳未満の割合は全体の10%程度しかありません。
今後、日本の建設業を維持、発展させていくためには、建設業への入職者数の確保、技術の継承を行うことは必須となりますが、現実的には入職数は伸び悩んでおり、後継者不足となっています。
近い将来、高齢技術者の大量退職も見込まれている中、いかにして担い手を確保し、施工水準を確保していくかについて早急な対策が必要となりました。
このような状況の中で、若者に選ばれる職場、長く働ける職場づくりのための仕組みとして、建設キャリアアップシステムが生み出されました。
建設キャリアアップシステムの概要
このシステムは、建設業界を支えている技能者の処遇を改善に力を入れたものとなっています。
所有資格、社会保険加入状況、現場の就業履歴等を登録、蓄積していくことにより、技能者の経験、技能を適正に評価し、それに見合った処遇の実現を目指しています。
これにより、若い世代も将来のビジョンを描くことができるようになり、建設業への入職者拡大へつなげ、将来にわたって建設業の担い手を確保していこうというものです。
また、建設事業者としても、所属している技能者の能力を客観的に示すことができるため、発注者等から適正な技術力の評価を受けることが可能になります。
さらに、施工体制台帳の作成のほか、建退協事務等への活用も予定されており、現場における事務の効率化も図られるとされています。
利用の方法
このシステムを利用するためには、まずは事業者情報および技能者情報の登録が必要となります。
登録後、事業者へはシステム利用に必要なIDが発行され、各技能者へは技能者ID、建設キャリアアップカードが発行されます。
技能者の場合
各技能者は建設キャリアアップカードを現場への入退場時にカードリーダへ読み込ませ、就労履歴をデータとして蓄積していきます。
※システム自体は「入場時の記録」または「入退場時の記録」を選ぶことができますが、入退場の記録を行うことによって労働時間の把握にも活用できます。
蓄積されるデータは、職長、班長等、どういった立場で現場に携わったかも含め記録され、自身の経歴を証明するものとなります。
建設業を一旦離れ、再度現場に従事するといった場合でも、自身の建設業における経験を容易に証明できるようになると考えられます。
事業者の場合
元請事業者は、システム運用環境を整える必要があり、現場へPC、カードリーダー等を設置し、技能者が利用できる環境を作ります。
システム利用体制を整えることにより、施工体制台帳の作成、現場に入場している協力会社、技能者の稼働状況の把握や、技能者の保有資格、社会保険加入状況等の確認ができるようになります。
ただし、これらを有効に利用するためには、現場に入場する協力会社、技能者すべてがシステムに登録していることが必要であるため、未登録の協力会社や技能者へ登録の呼びかけを行っていく必要があります。
現場に設置する機器について
現場での利用環境を構築するためには次の準備が必要となります。
- インターネット接続環境
- パソコン(windows)、iPad、iPhoneのいずれか
- 建レコ(就業履歴登録アプリ)
- カードリーダー
建レコ(就業履歴登録アプリ)は無料で使用することができます。
カードリーダーは現在(2019年11月24日現在)発売中のもので、このシステムで利用できるものがwindows用、iOS用それぞれ1機種あります。
建設キャリアアップシステム対応カードリーダー
対応OS | 機器名 | 機器メーカー | 実売価格(税抜き) |
windows | Dragon_cc | ㈱サーランド・アイエヌイー | 約11,000円 |
ios | BNR01NF | トッパン・フォームズ㈱ | 約30,000円 |
※価格は2019年11月24日時点での販売状況を掲載しています。 取扱店によって金額が異なる場合があるため、ご購入の際は購入先へご確認ください。 |
カードリーダーを利用しない場合
システムの利用について基本的には現場へカードリーダーを設置しての運用が基本になると考えられますが、直接システム上で入力していくことも可能です。
短期間で終了する現場や、インターネット環境が準備できない現場等では技能者本人または技能者が所属する事業所がシステムへ直接入力する方法で対応が可能となっています。
今後の予定
建設キャリアアップシステムの運用に伴い、今後取り扱いが変更される予定として以下のものが挙げられます。
- 経営事項審査の審査基準改正(2020年4月を予定)
- 建退協事務の就労実績自動作成等、効率化(2020年度中を予定)
- 外国人技能実習および外国人建設就労者受入事業による外国人受け入れ関し建設キャリアアップシステムへの登録義務化(2020年1月施行)
※特定技能については2019年4月に施行済み
このシステムは本格運用となって、それほど時間が経過していないため、今後も改正、改良がなされていくのではないかと思われます。
また、活用の範囲も拡大していくのではないでしょうか。
現在登録を考えていない方、もうしばらく様子見という方も、元請事業者の動向を含め情報収集は怠らないようにすべきと考えます。